2024年5月17日(金)の朝は晴

保育園の先生が教えてくれた早起きのスイッチ

杉崎 晃広
出版ディレクター、ビジネスモデル・デザイナー®

「いつも何時に起きてますか」と、今年から当院に仲間入りしたH本栞奈さんに聞かれた。朝型生活に切り替えるため、周囲に起床時間を聞きながら早起きのコツを模索しているとのこと。参考になるかわかりませんが、と一言添えてから「朝4時に起きています」と答えると、「そんなに気合い入れて新聞配達でもやってるんですか」と驚かれた。

H本栞奈さんの本業はテクニカルライターとしてマニュアル制作会社に勤務。上司からAdobe認定資格を取るよう言われ、出社前にオフィス近くのベローチェで朝7時から勉強しているが、そのために午前5時起床。寝るのが午前1時頃なので「毎朝気合で起きてます」と言っている。

 今でこそ「自分は朝型です」と言ってるが、振り返ってみると夜行性だった頃の方が圧倒的に長い。仕事は毎日残業で午後11時帰宅。深夜の夕飯を食べ、寝るのは午前3時。7時起床、7時半に家を出る。平日の睡眠不足を補う理由で、土日は朝10時まで寝坊していた。

 ただ、習慣に関する本に紹介されるような著名人の早朝ルーティンには憧れた。それこそ「気合い」を入れ、目覚ましを買い揃えたり、朝活手帳を作ったりしてトライしたが、好きなアイドルのファッションを真似る高校生みたいな、そんな浮わついた動機では長続きするはずもない。睡魔に勝てない意志の弱さを思い知りながら、憧れはフェードアウトしていった。

習慣化に関して私がいつも参考しているのはメイソン・カリーの『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』と、そこでも紹介されている著名人の一人、村上春樹の『職業としての小説家』。

 私が本気で生活リズムを変えようと思ったのは子どもの出産に立ち会ったとき。生まれたての赤ん坊を手にとった瞬間、骨はあるのになんだかフワフワしていて、しっかりした感じが全然しない。「生理的早産」とはよく言ったもので、こんな状態で放り出されたら生き延びるなんて絶対無理。とにかく生まれてきた子を「人」に育て上げなければと思った。

 育児休暇中の妻がワンオペにならないよう、夜7時には家にいるようにした。スポーツジムは退会し、休日の誘いもキャンセル。子育てに良いとされることは素直に実践した。夜泣きには苦労したが、食事もしっかり食べ、とくに心配になるようなことは起こらなかった。

 ところが、子どもが2歳を過ぎたあたりでテレビを見たがるようになった。思い当たる節がある。妻も私もドラマが好きで、子どもを9時に寝かしつけた後、深夜まで見ていたのだが、それに気付いていたのかもしれない。子は親の背中を見て育つとはよく言ったもので、絵本の読み聞かせより録画したディズニー映画を選ぶ。無理やり寝かしつけようとすると全身で反発してくるので、最後には根負けして見せてしまうのだが、その分寝るのが9時半、10時と遅くなっていく。

 その頃は保育園に通っていたので、朝7時に子どもを起こして朝食を食べさせる。でも就寝時間が遅くなれば当然7時には目覚めない。遅刻するので無理やり起こすのだが、眠そうな子どもの顔をみながら睡眠不足が心配になった。

 だいたいの目安を知ろうとネットで検索すると、1~2歳児は11~14時間が推奨らしい。夜10時に寝て朝7時起きということは、毎日9時間睡眠。保育園のお昼寝の2時間を加えれば最低ラインの11時間だけど、それではギリギリすぎ。やはり夜9時には寝かせたい。

厚労省のHPにて、健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会が作成した『健康づくりのための睡眠ガイド 2023』があり、米国睡眠医学会(American Academy of SleepMedicine)の研究結果から「1〜2歳児は11〜14時間、3〜5歳児は10〜13時間、小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間の睡眠時間の確保を推奨」(p.15)とされている。

 思い切って保育園の先生に相談してみた。そしたら即答だった。

「親もお子さんと一緒に9時に寝ればいいだけです」

 大人が夜9時に寝るなんて年寄りくさいなぁと抵抗感はあったものの、その夜、藁をもすがる気持ちで家族全員で9時に布団に入った。

 いつも寝かしつけるのは妻か私の一人だけだが、その夜は二人とも横にいるので、子どもは嬉しそうに布団に入り、すぐに寝た。意外なことに妻も私も眠れた。それだけ日中疲れているということなのかもしれないが、さらに想定外のことが起きた。翌朝、自分の体が朝4時に目覚めたのだ。

 朝食の7時まで3時間もあるので二度寝した。まるで休日みたいだと思いながらゴロゴロしてみる。でも気持ち良さが全くない。布団の中に無理矢理いるみたいだ。この居心地の悪さの原因を考えながらふと思った。夜9時から朝4時といったら7時間。夜行性だった頃の4~5時間睡眠に比べると、なんて贅沢。

 翌日、二度寝せずにすぐ起きた。起きて憧れの早朝ルーティンをやってみた。そしたらスッとできた。このスッという感じが不思議だったが、それから18日目にそんな不思議さも感じなくなった。

シェア・ブレイン・ビジネス・スクールの習慣化メソッド「目標達成率100%を実現する習慣化の技術 うまくいく人の習慣を習得・継続する」を活用。

 朝型に憧れた時の「気合い」はいったいなんだったのだろう。私の場合、早起きに必要だったのは、「子どもと一緒に9時に寝る」というスイッチであり、それを押す意志だった。

 佐々木典士が『ぼくたちは習慣でできている』でこう言っている。

意識を呼び出さず、「ほとんど考えずにする行動」。ぼくはこれが習慣だと思っている

佐々木典士『ぼくたちは習慣でできている』p.82

 今では夜8時半になるとパジャマに着替え、子どもと一緒に歯を磨く。このスイッチを教えてくれた保育園の先生には本当に感謝である。

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