2024年9月18日(水)の朝は晴

「書けない」ということを書くところから

杉崎 晃広
出版ディレクター、ビジネスモデル・デザイナー®

十二月十五日(金)
今日から小説を書かうと思つてまだ書かず。他から見れば怠けるなり。終日何もせざればなり。自分から云へば何もする事が出来ぬ位小説の趣向其他が気にかゝる也

夏目漱石『漱石全集第一巻 日記及断片』p.798 漱石全集刊行会

 記事の投稿を習慣化しようと、三年くらいもがいている。

「実はここ三年急に忙しくなって執筆の時間がなかなかとれなくてさ」みたいな言い訳ができるほど忙しくはないし、家事や子育ても一通りルーティン化できているので、正直なところ一日二時間くらい自由がきく。

 それでもなぜか書けない。

「書けないとか言ってるヤツって、本気で伝えたいことがないからだろ」と、懇親会で前の席に座った三十代フリーライターの言葉を思い出した。自分もそうなんだろうか。

 自民党の総裁選で河野氏が「解雇規制の緩和」を言及し、立憲民主がリスキリングの環境整備を訴えている。そういう話は二〇二三年に当院が出版した『いまだから真似したいスェーデンⅡ~少子化対策・子育て・生涯教育編~』ですでに触れられているんですけど・・・そんなことを記事にしようと思った。

 一文を書く。ちょっと伝わりにくいので補足する。その補足が信じるに足ることのエビデンスを示す。画面をスクロールするタイミングで読み直すと、なんか冗長。削れるところはないかと頭から読み直してみる。なんか全部必要な気がするけど・・とりあえず一旦保留にして、明日は別のテーマで書いてみるか・・・

 そんな感じで記事の旬というものが過ぎていく。結に至らぬまま放置された文章は百を超えたが、周りから見れば何もやっていないに等しい。生産性ゼロなのだから「伝えたいことがない」と思われても仕方ない。

 そうはいっても出版で仕事をしているからには、書くことから逃れられない。執筆の「基礎体力」は維持すべきだろう。

村上春樹『職業としての小説家』p.168

 とりあえず「書けない」ということを書く。それは自分が無能であることを晒すことなんだけれど、腕立て伏せをするように一語でもアウトプットすれば基礎体力の足しにはなる。

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